2009年11月14日

微妙な結果だな。

・IntelとAMDが包括的和解――IntelがAMDに12億5000万ドル支払い
http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0911/13/news015.html
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/20091113_328546.html

…なんだか微妙な感じだなぁ。「和解」だから勝者はいない訳だけど、どう見ても事実上Intelの勝ちに見えて仕方ない。
内容の文面だけ見れば、

>両社は新たな5年間のクロスライセンス契約を締結、これまでのライセンスに関するすべての訴訟を取り下げ >IntelはAMDに12億5000万ドルを支払う
>Intelは問題とされていた一連のビジネス慣習(営業妨害)を今後行なわないことを認め、AMDは米国と日本で係争中の独禁法訴訟を取り下げる

と、一見AMD有利な内容に見える。
しかし、あのIntelが、自分に利のない合意をするはずがない。つまり、これはIntelにとって「有利」な内容という事だ。

注目は、「Intelは問題とされていた一連のビジネス慣習(営業妨害)を今後行なわないことを認め」という点。
Intelは独占的地位を背景にライバル排除のため不正な商行為を取引先に強制してきたとして、世界中の独禁法違反に問われている。
無論Intelは否定するものの、排除勧告が出れば応諾はするが事実関係は認めないと言った矛盾する行動を取ってきた。認めないのなら応諾などしないのが当然なのだが、そうしない(出来ない)という事は「争えば負けるからツケを先払いしておいて、敗北を承知の上でとぼける」という意味と考える。
で、この文言で彼らが否定してきた疑惑は事実だと自ら認めた訳だ。それだけ言い逃れの出来ない証拠が累積されたってことだ。

つまり、ここでこんな和解に踏み切ったという事は、これが最も損害を少なくする最善の策と判断したってことだろう。優秀なIntelの法務部も、(優秀なだけに)争いを続けてももはや自社に勝ち目はないと悟っていたんだろうな。
勝てない係争を長引かせて莫大な費用を失い、悪徳企業として世界中から制裁金やら賠償金やらで袋叩きに遭う前に、多少は聞こえのいい「和解金」をちょっとばかり敵に贈り、法的判断を避けるのが賢いやり方だろうな。
12億5000万ドル(約1200億円強)なんて、Intelにとっては端金だ。痛くもかゆくもなかろう。
そんなものより、これまで重ねてきた不正を徹底追求されて法的に処断される方がよほどマイナスだ。
実際既に欧州委員会からは独禁法違反認定・約14億ドルの制裁金支払い命令を食らっていて、上告中だが恐らく勝ち目はなかろう。欧州委員会の調査は長期かつ徹底的だから、それを元にした決定を覆す事はほぼ不可能だ。

彼らがもっとも恐れているのは、「『不正なビジネスを行い続けてきた』ことを判例として確定される事」だ。そうなってしまうと、これまで「恫喝する側」だったものが「恫喝される側」になってしまう。
例えばOEMに「AMD製品を使うならうちの製品は引き揚げる」と脅せたのが逆にOEMから「AMD製品をラインアップに加えることで製品を引き揚げるなら訴えるぞ、違法認定されてんだからお前ら勝ち目ないぞ。自由にやらせろ」と脅されることとなる。
いかに巨人Intelといえども、こうやって世界中から手足を縛られては倒れかねない。


AMDとしては、正にそこ:違法認定を狙っていた。それは訴訟に踏み切る際の幹部インタビューでもはっきりと示されていた。Intelの違法行為を完全に封じ、その上で商売をしたい、と。そうすればユーザーは適正な選択をしてくれるだろう、結果としてシェアが付いてくる、と。
だから本来は、和解などではなく結審まで持っていきたかったはずだ。きちんと判例という烙印を押したかっただろうし、それが最終目的だった。

しかし。AMDにとって、訴訟を起こした2005年とは環境が一変してしまった。
当時、性能面でもIntelより優位に立っていたCPUは完全に追い越され、今や使い古しのK8改(K10:PhenomII)をクロックアップする以外に性能面での対抗策はなくなった。
次世代の「Bulldozer」アーキテクチャまではまだ1年あるし、実際の能力は出てみなければわからない。その頃にはIntelも次世代になっているから、どこまで対抗出来るかはいささか疑問だ。
つまり、「不正」がなくとも販売面で対抗しきれない窮状にある。

その事と旧ATIの買収費用(買収そのものについては失敗とは思わない)、そしてリーマンショック以降の世界不況にジャブなりストレートなりを打ち込まれ、何度も米連邦破産法第11章(チャプター11)適用の噂が流れるまでに状況は悪化している。

(余談だが、必ずしも「チャプター11=倒産」ではない。チャプター11とは日本で言う「民事再生法」相当であり、その適用を受けて再生を果たした会社はいくらでもある。
ついでに、「第11」であり「第11」ではない。米連邦破産法には「条」はなく、「章」で括られた(箇条書きではない)文章による記述規定となっているからだ。)

要するに、AMDが最終目標を果たすまで戦っては会社自体の存続に関わる状態になってしまった訳だ。折角の勝てる戦いだが、不本意ながらなるべく早い時期に少しでも有利な条件で終わらせることを迫られてしまっていたという事だ。

ここで両者の利害が重なった。何としても違法確定・判例化を避けたいIntelと、不本意だが体力切れになる前に有利な条件を引き出したいAMD。その妥協点が今回の和解だ。

こうしてみれば、AMDが起こした訴訟の真の勝者はやはりIntelと思える。
AMDから見れば、多少の金をもらい、営業妨害が無くなっても(少なくとも表向きには:AMDにバレない限り出来てしまう)、肝心の製品に競争力が欠けていれば、OEMは採用してくれない。業績が黒字転換するまでは現状とほとんど変わらない。
一方Intelは、とりあえずAMDの訴えに起因する脅威は払われた。経済的ダメージはないに等しいし、実質上何も失っていないようなものだ。


しかし。
実はIntelにとっては、AMDとの係争は「脅威の一つ」に過ぎない。冒頭に書いた通り、IntelはAMDから訴えられる以前から世界中の公取委(相当機関)に目を付けられている。
前述の欧州委員会の件もそうだし、アメリカでも司法省が原告の訴訟がある。今回の和解は、これらにほとんど影響はないだろう。
要するに、Intelが「今までいっぱい悪い事をしたけどもうしないよ」とAMDに言い、AMDが「それなら今までの事は先生に言い付けしないよ」と答えたってだけの話だからだ。

長々と書いたが、大勢にはあまり影響はない、あるとすればIntel有利、と言うのが個人的感想。

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posted by 環螢 at 16:50 | TrackBack(0) | PC関連